コラム『明日の為に・・・』

 誰にでも一生の内で、何でも読み返したい本というのはあると思う。
小説や哲学書 や漫画、ましてや画集だっていい、どんなジャンルにおいても。
そんな中、自分にとって何かしらあると、否、なくとも読み返してしまう本は、ちばてつや先生の漫画『あし たのジョー』である 。
この本だけは、本棚や押入れにしまわず、枕元に常においてあ るのだ。そして、もし今の時代『カルトQ』が存在していて、テーマが『あしたのジ ョー』なら、迷わず番組出場の葉書をポストに出しに行くであろうぐらい、好きで何 度も読み返している。

 読み方一つとっても、変なこだわりを創ってしまった。
 まず一つとして、畳の部屋 でなければならない。むろん、最適なのは、4.5畳の畳の部屋なのだが、幸か不幸 か幸い自分の部屋は、恵まれた6畳の為、部屋の隅でひっそりと体をまるめて読むのだ。
そう、ジョーや力石が減量の時に体を丸めてじっと我慢していたかのように・・・ 。
 そして、もう一つは、ジョーのいた時代昭和40年代を感じる為、BGMにフォー クをほんのりと流すのだ。この難しいところは、歌がメインにならない程度の大きさでなければならない。少しばかし時代が異なるが、中島みゆきや井上陽水、森田童子 を流しながら読むのはなんとも最高だ!

 『あしたのジョー』の魅力とは?と、問われれば『全て』と答えるのが、一番短く 最適な答えであろうが、やはりそれでは味気ない。そこで、自分なりにどうしてその 魅力に引き込まれてしまったかを考えてみると、まず時代背景。ジョーは、プロのリ ングに上がったのが、1969年(昭和44年)自分が生まれる10年も前だ。この 辺りの時代といえば、学生運動やら赤軍派による、よど号ハイジャック事件など過激 な時代であったが、ジョーは泪橋の下の丹下ジムでただひたすら、サンドバックやミッ トを打って黙々と汗を流している。同い年のほとんどが青春を謳歌しているというの に、明日の為だけに黙々と・・・。

 そして、一番の魅力といってもいいのが、ライバル達一人一人がすばらしい人達で あった事。少年院時代からのライバルで、まさに命を賭けた戦いを制したが試合後息 をひきとった、最高のライバル力石徹。
漫画の世界でも現実の世界でも、葬式が行わ れたのは彼一人ではないだろうか。
  その他に、6回戦ボーイ卒業を賭けて戦い、アゴ を粉砕し再起不能にさせたウルフ金串。『無冠の帝王』と呼ばれ、ジョーとは拳でし か分かり合える事のなかったカーロス・リベラ。ジョーにはばかる最高の壁であり、 まさにジョーの命を燃え尽きさせたバンダム級王者ホセ・メンドーサ。彼らがいたか らこそ、ジョーの野性味や人間臭さがよりいっそう引き立つのだ。

 最後に、心が弱っている時にグッとくるのが、ジョーから吐き出させられる一つ一 つの言葉なのである。
一つだけ、漫画の中から抜粋させてもらうと、『そこいらのれ んじゅうみたいにブスブスとくすぶりながら、不完全燃焼しているんじゃない。ほん のしゅんかんにせよまぶしいほどまっかに燃えあがるんだ。そして、あとにはまっ白 な灰だけがのこる・・・。燃えかすなんかのこりやしない・・・。まっ白な灰だけだ 。』
これは、ジョーとジョーに気をよせている紀ちゃんとの会話に、ジョーが吐き出し た言葉なのだが、これほど心にグッとくるものはない。ジョーフリークでなくても、 グッとくるはずだ。

この言葉を読みながら、ジョーと自分を置き換えてみるのだ。
 ジョーは、スポットライトに照らされた四角いリングの中で、自分の中にある全て を出し尽きるまで拳を交わし、血と汗を流し戦う。 ほんの一瞬の為に。
自分は、眩し いほどのスポットライトに照らされたステージという舞台に上がり、一つの音を五人で創りだし、汗を流し時には鼻水やら何の体液すら判らないモノを流し、自分達のす べてを出し切るまで演奏する。 ほんのわずかな時間であるが。
ただ、ジョーの場合は、 相手を倒せば決着がつくが、演奏となるとまったく違う。
本当にこのステージで全て を出し切れたのであろうか?自分は、出し切れたが五人が一体となって出し切れたの であろうかと、悩む時もある。
また、ジョーと自分の決定的な違いは、ジョーは絶え ず100%自分の為だけにリングで戦ったいる。他は、まったく関係無い。だからこ そ、よくリングの上で自問自答しているのである。
自分は、もちろん自分の表現した い事の為に演奏するが、それではいけない。このギターの音は、聞いている人達にとっ て、より心地良いものに聞こえるかなど、様々考え悩み、苦悩し続ける。
そう、燃え 尽きるその日が来るまで・・・。  

 

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